物語はどこまでも!

「なんでー、ねえ、なんでー!ウサギさんが勝っちゃだめなのー!」

静かな空間に響く子供の声。
起きてしまったにせよ、なにやら不服の様子。スタッフの一人が対応していた。

「カメよりウサギさんの方がかわいいのに。勝ってほしいから起こしたのに、なんでだめなのー!勝つのはいいことなのにー!」

「えっとね、物語は変えちゃいけないから」

「なんでー?ウサギさん起こせたんだよ?勝てたんだよー?」

「か、変えたら大変なことになるから、ごめんね、起こしちゃって。次は物語通りにカメさんを」

「ウサギさんが勝つのがいいの!」

あたふたと戸惑うスタッフ。話途中でも、大筋は分かった。あの子はウサギとカメの物語を変えようとして起こされてしまったのだろう。

受け付けや、さらには『訪問』をする際に聞かされる注意事項。

物語を大きく変えてはならない。
そのような行動が見受けられた場合は、『アトラクション』を中止致します。

とは言っても、当館の利用者はほとんどがまだまだ社会経験がない子供。見たところまだ小学生にもなっていないような少年だ。決められたルールに反して行動してしまうのも無理はない。

加勢に入るかと、癇癪を起こしそうになる少年のもとに向かおうとし。

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