物語はどこまでも!
「館内ではお静かに願おう、クソガキ」
少年の声だけでなく、水のせせらぎや、小鳥たちの声、さらにはスタッフ一同を凍り付かせる人物がそこにいた。
少年の前で仁王立ち。腕を組み、威圧するかのような姿勢で挑む女性は、『おっと』と咳払いをする。
「失礼した、利用者様をお呼びするにあたって適切ではなかったな。静かに願おうか、子供」
その呼称もどうなのかと思うが、失礼したと言う割には、憮然した態度で彼女は続ける。
「で?何が不服か、子供。クレーム対応には迅速に対応するよう、長(おさ)から言われているからな」
そんな物言いで少年が答えられるわけもなく、代わりに対応していたスタッフが訳を話す。
「そうか。再三、『物語を変えようとしてはいけない』と注意されているにも関わらず、それを『やる』ならば問題は子供の方にあるようだ。聞いていないというクレームならば受け付けない。そういった『言い逃れクレーム』が多いため、我が図書館では徹底した説明を義務付けている。仮にも我が図書館の精鋭(従業員)たちが、利用者様に重大なる危害を加えるかもしれない説明を疎かにしている事実あらば」
かちゃんと、彼女が帯刀する刀の鍔が鳴った。
「クビだ」
それはどういった意味での『クビ』で!?と、刃物前に青ざめるスタッフだった。必死になって説明してますしてます!と弁解している。
そりゃあ、刃物。しかもか、彼女の場合は腰に一本帯刀するわけでなく、背中に六本帯刀している強者(ヤバい人)。さながら、虫の足のように背後より伸びる鞘が、左右三本づつ。どれもが日頃から使っているかのような“使用感”があるため、怖がるのも無理ない。
そうして、少年もまたブルブルと震えている。
「やはり説明は受けているな、子供よ。まだ小さな貴様にはルールを守ることこそが難しいかもしれないが、そのために、我らが精鋭たちがいる。気持ち良く眠っていたところを起こしたことについては詫びる。しかして、あのまま貴様が物語を変えていた結果をその身に教えるべきかもしれんな」
がしっと、少年の頭を掌握したよ、あの人はあぁ!
「その物語が“違うもの”になった瞬間、世界は壊れる。その時その場に居合わせたお前の意識ごとな。それがどんな結果を招くのか。経験したことはないが、恐ろしいことには違いない。両親に一生会えず、泣くことも叫ぶことも出来ない暗い場所で永遠に漂うことにーー」