物語はどこまでも!
「大人げないでしょ!」
まさにこれ、のセリフと共に彼女の頭にチョップをしておく。
反動で彼女の手が離れるなり、そのまま少年が昏倒した。
「ま、まさか、頭蓋骨にひびが!?」
「ハッハッハッ、いくら私の握力を持ってしても無理な話だよ。せいぜい林檎がいいところさ」
「それは安心していい例えではないのですが!?」
「第一、前提が間違っているぞ。あれは掌握ではなく、『ナデナデ』だ。大人げなくはない。良い子にするんだぞ、の意味を持って接しやった」
「ナデナデはこうですよ、こ!う!」
これもまたナデナデではないのだけど、彼女の頭をめちゃくちゃにした。すまないすまないと謝罪されたので、離してやる。
「そう腹を立てるなよ。問題ない。ただまた『訪問』をしただけだ。私の言葉で心を入れ替えたのだろう。きちんと物語通りに進んでくれるさ」
少年の様子を窺うスタッフも、眠っているーー『訪問』をしているようですと言ってくる。
「あなたの恐ろしさに気を失ったのでは……」
本を抱きかかえたまま眠る少年に大事はなさそうで安心した。『訪問』の条件には、この図書館『フォレスト』の敷地内にいること。聖霊『ブック』の羽根のしおりを挟んだ本を持つこと。深く眠りたいと思いながら目を瞑ること。これを守れば誰でも物語の中に行ける。意図せずとも、条件が揃っていれば『訪問』をしてしまう。
この少年の場合は、目の前の鬼から逃げたい一心だったろうな。ウサギとカメに慰められておいで。あの二匹、優しいから。
「ノノカ!」
ぴょんっと、私から彼女ーー野々花に飛びつこうとし、不自然に制止。彼女の斜め後ろで待機し、かしこまるマサムネだった。
「ソソギ殿を連れてまいりました」
「助かった。さすがは我がネイバー。仕事が早い」
「この程度のこと、某にとっては造作もありませぬ。……ふ、ふふぅ」
わーいやったーな心が隠しきれていないマサムネだった。青いモコモコを震わせながら、喜んでいる。
「はあ。それで、話ってなんですか」
こっちも忙しいのですよと、ゲノゲさんと遊んでいたことは棚上げにして言ってみる。
「ああ。お前の旦那についてだ」
「だ、旦那!?」
上擦った声で叫んでしまった。館内ではお静かにっ、と睨まれてしまい、頭を下げる。