物語はどこまでも!
ここではと、スタッフルームに移動した。リーディングルーム内にあるスタッフルームの外観はツタが絡まった大木だが、関係者が来ると大木のうろが広がり中に入れる。
中は簡素な作りで、机と椅子、そうして観察用のモニターがいくつかあるのみ。先に駐在していたスタッフがいたが、野々花が休憩を言い渡し、出て行ってしまう。
「周りに聞かれたくない話ならば、私の所まで来れば良かったではないですか」
マサムネに外の見張りを頼むほど徹底した彼女の行動に物申せば、「そうしたかったんだけどな」と濁される。
「内々に済ませたい話があったんだ。あちらには、『長』がいる。もしものことを思い、こちらに呼び出した」
「……、司書長に聞かれたくない話って、やめてくださいよ。変な話は」
「ああ、するつもりだったんだが、もう手遅れだったよ」
肩を竦める野々花。まいったという割には、口元は笑っている。
「さきほど、ジャックが豆の木に登るのが嫌になったということで、私が物語の世界に入ったんだがな。そこで、お前の旦那に会った」
「旦那じゃありません、ネイバーで……いえ、ネイバーとも違いますけど、その、単に私に付きまとう人なのです」
「お前がこれじゃあ、あいつも大変だな。ともかくも、なかなか登ろうとしないジャック相手に苦戦していたんだが、お前の旦那ーー分かった分かった、怒るな。セーレだったか?そいつが助力してくれて、無事にジャックは豆の木を登ってくれた」
彼の物語改竄能力が役立ったのだろう。
物語の世界であったトラブルを対応するスタッフから、彼の助力があったという話はちらほらと聞く。そのたびに、『俺はそちらの世界で働く雪木の伴侶だ』とか言うはた迷惑つきだけど。それでもトラブルが解決することはいいことだ。
「頭のきれる聖霊だ。まさか成長した豆の木の要所要所に、エロ本を設けてジャックを登らせるとは」
「それは別のトラブルに発展しかねませんか!?」
子供に見せられませんよ!
「大丈夫だ。読者からは見えぬよう配慮もするし、登りきったら即刻、巨人に預け、後から巨人とゆっくり楽しむそうだから」
「もっといい手はなかったのですか……」
「最善だったと思うがな。それで、だ。今回の事件も、ジャックに『そそのかし』が関与していたから起こったことなんだが、捕獲に成功した」
それは普通に凄いとは思ったが、同時にそんなことかとも思う。
『そそのかし』は、図書館スタッフがトラブル解決のために物語の世界に侵入するとどこかに逃げてしまう。そうそう捕まえることもできないが、小指ほどの大きさ、黒い虫と、その特徴を表したビラを作成することが出来るほど、捕まえられないものでもない。捕まえたところで給料が上がるわけでも、激励されるわけでもなし。
いったいそれの、と言うのを見越して、野々花は人差し指を口元に置く。
一度辺りを見回し、誰もいないのを確認。耳打ちをされた。