物語はどこまでも!

「『そそのかし』を“持ち帰ってきた”」

は!?な声を呑み込む。
自身の目が飛び出しそうなほど仰天した。


持ち帰った?帰ったって。
わなわなとする私のリアクションが思った以上だったか、野々花は上機嫌で言う。あくまでも小声で。

「そうだよ。文字通り持ち帰ってきた。絵本の中にあったものをだ。石ころ一つすらも持ち出せない世界の物を持ち帰って来れた」


そうだ。一番の仰天はそこ。
絵本の中にある物は、この世界に持ち帰ってはこれない。地に足がつき、呼吸もでき、自由に動き回れる世界でも、『訪問』が出来るのは意識だけだ。こちら側の物を持って行くのは可能だが、それも身に付けているものに限るし、こちらの世界に戻ってきた時点で物語の世界からは消えてしまう。

これはこの図書館が出来てから何度も検証していることだし、『訪問』の注意書きにおいても『物語の中の物は持ってきてはいけない』ではなく、『物語の中の物は持ってこられません』になるほど重要視されていない部分だ。

「い、いえ、待って下さいよ。『そそのかし』を捕まえた事例はいくつかあります。“捕まえた”というからには、“持ってこよう”とした人も何人かいるのでは?」


『そそのかし』出現より時はそれなりに経っている。もしも持ち帰って来られた物がいたら、大問題となるだろう。それを耳にしないとなれば。

「私が初の持ち出しに成功したか、機密情報として上から圧力がかかっているかだな」

彼女が司書長に知られたくない理由がそれだった。

「まあ、もっとも。お前に話したあと、報告しようとは思っていたんだよ。お前は長のお気に入りだからな、何かしら知っているんじゃないかと思ったが反応を見て理解した」

お気に入りという自覚はないが、一人納得する彼女。

「野々花は、司書長が何か絡んでいると思っているんですか」

「悪い方向性は考えていない。恐らくは公にしない理由も、無用な混乱を招きたくないからという心遣いだとも信用している。お前に話したのは、『私の知らないことがあれば教えてもらいたい』という野次馬根性だよ。もっとも、収穫出来ないことも目に見えていたが」

ニヒルな笑みが似合う野々花は続ける。

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