物語はどこまでも!

「『そそのかし』が持ち帰ることが公になってない理由のもう一つ。私が初めて持ち帰った説だが、これには今まで捕まえた奴が本当に持ち帰っていない証明が必要だ」

「だったら、直接聞けばいいじゃないですか。『そそのかし』を捕まえた事例は別の
図書館だけでなく、ここにだっています。知らない人ではないでしょう?」

「司書長から圧力がかかっていれば、答えるわけがないさ。お前のように正義感が強く、何でも話せる友人なら良かったのだが、詮無き話だな」

「証明出来ないじゃないですか……」

「ああ。だが、“今までと明らかに違う”というのは証明出来る」

手のひらを見せる彼女。

「どこの図書館でも出回っている『そそのかし』の特徴は、黒い芋虫状のもの。大きさは小指にも満たないがーー私の捕まえた『そそのかし』は手のひらほどの大きさだった」

手のひら大の芋虫を想像し、ぞぞっと怖気たった。それを彼女は素手で捕まえたんだろうと想像も容易に。

「手のひらって……」

「小さいものが、大きくなっていた。単純に“成長”していたという話になるが、あの『そそのかし』を捕まえた時、私は震えてしまうほどの憶測を持ってしまったのだよ」

開かれた手が、拳に変わる。

「『そそのかし』に関して、今までそれほど重大視はされてなかった。口だけの黒い虫で、『耳を貸さなければいい』という安易なことで対策も出来るし、物語の住人たちが『そそのかされた』としてもやることは極めて単純なこと。せいぜいワガママが過ぎるといった程度だ。我々が対応すれば、事も無げに解決出来る。虫についての議題をすれば、せいぜい『どこから来たのか』に論点がおかれ、発生源を絶とうとする話ばかりで、結局のところ『不明』で終わる。私とてそれは例外ではなかった。異分子を叩くには発生源をつきとめなければならないと思っていたがーー別の見方をしてしまったのだよ」

「別の……?」

「ああ。発生源ではなく、もう発生していることーー『どこの物語にでもいること』に論点をおいたんだ」

何のことかと把握しかねたが、一拍おいて、
気付く。

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