物語はどこまでも!

(三)

前回の世界と違い、今回は夜の世界だった。

狼さんが吹き飛ばしてもビクともしないようなレンガの家が並ぶ表通りは圧巻なものだが、暗さもあって非常に沈鬱な雰囲気だった。

家から明かりは漏れていない。家人が寝ているわけではなく、皆一様に出払っているからだろう。

遠方より、体の芯まで震わせるような音が何発か。夜空に色を与えたのは花火だった。


「お嬢さん、危ないよ」

すみません、と後方よりかけられた声に謝罪する。入れ違いで、馬車が走り去っていった。行き先は白亜の城。花火が上がったのもあの付近だ。今まさに、あそこでは盛大なパーティーが開かれていることだろう。

『シンデレラが、お城に来ないそうなのー』

と、端的かつ明快なお達しがあったため、シンデレラの物語に『訪問』をすることになった。

連絡してきたのは司書長からだった。大概、こういったトラブルごとは司書統括に回して、それから司書を通じて、司書補統括後に、スタッフの誰を派遣するか書面でまとめて提出するのだけど。

「お気に入りではなくて、ただの扱いやすいだけなのでは……」

可及的速やかに解決する必要があると判断された場合、司書長権限で手続きを踏まずとも事件解決がための人材を派遣することが出来る。のだけど、受け取った当人からしてみれば、あの口調はどう考えても『可及的速やかに』よりは『とりあえず、やっといてー』な印象だ。司書長の中ではとりあえず、私に頼んでおけという公式が出来ているのかもしれない。

入って間もない私に任せっぱなしではと、最初の頃は司書統括含め司書長の職権乱用っぷりに物申していたけど。

『あの子には物語界において、最強の旦那さまがついているじゃないー。可及的速やかに、かつ安全に事件を解決してくれるよー。可及的速やかにー』

「もはや、『可及的速やかに』を使いたいだけでは!?」

言葉覚えたてのオウムかっ、と一人で叫ぶ。脳内司書長に物申したところで、虚しくなるだけだった。

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