物語はどこまでも!
ともかくも、司書長の性格改善は諦めるしかなく、電話一本で何でもこなします的な立ち位置が落ち着いてきてしまった。
「それに、旦那じゃないって言うのに」
まったくもー、と石を蹴っとく。どこまで転がっていくのかと見ている最中。
「そーそぎっ」
ガバッと背後から抱きつかれた。
背中から感じるのは温もりなはずだけど、鳥肌びっしり。
「な、ななっ」
「無防備だよ、雪木。もしもこれが俺じゃなかったら大変なことになってたねぇ。このまま人気のない路地裏に連れ込もうか?」
「あなたであっても大変です!」
彼の足を思いっきり踏む。
体にまとわりつく腕から逃れ、そのまま走り出したというのに。
「そう逃げられると、アリスの気持ちがよく分かるよ。どこまでも追いかけて追いかけて、捕まえた暁にはーークッ」
「想像の先を実行しないように!」
難なく捕まってしまっては、もう諦めるしかなかった。このまま、一緒に暮らそうか?などど、『暮らす』の言葉には不釣り合いな鎖を出されるのも見慣れた光景だ。
「ウサギ以上に可愛いなぁ。もう俺は君の虜だよ。匂いだけで、どうにかなりそうだ」
「つむじの匂いを嗅がないで下さいよ……」
身長が高い彼にとって、さぞかし嗅ぎやすい位置にあるとしても頭頂部より毛が薄くなりそうなほど没頭しないでほしい。ジャンピング頭突きをくらわし、今度は逃げずに距離だけ開けておく。
「今回も仕事で来ました。あなたに会うためではありません」
「いいよ、それでも。俺は雪木に会えて嬉しいのだから。今日は何を手伝おうか?」
「手伝い不要です!私の力のみで何とかしてみせますから」
「はいはい」
母親的笑みを向けられるほど、やはり私は無能なんだと思い知らされる。