物語はどこまでも!
「いや、念のためだよ。君と添い寝する男はいないかと思って」
「言い方を考えて下さいよ……」
もっとも、そうなってしまうため非常事態でない限り進んで人と眠る人はいないだろう。あるとすれば、時折、何も分からずただ添い寝してしまったゲノゲさんが『割り込み』してしまう程度の話だけど。……いないか、残念。
「ーー、持ち帰れました」
なんと言うべきか迷ったが、率直に言う。
聞いた彼は、初めて見る顔をしていた。
驚愕。目を見開いている。今にも口を開けそうになるも、自覚したかいつもの表情に戻す。野々花曰わくの見てくれだけがいいという顔に。
「今まで、こんなことありましたか?」
「ない、な」
人間らしい見た目で忘れてしまいそうになるが、彼の種族は聖霊。聖霊は不老で寿命で死ぬということはない。彼らの『死』の概念は『消失』となり、それに至るには外的要因ーー他害によるものでしかない。平和な世では、聖霊を傷つける人はいなく、半ば不老不死にも近しい存在となっているが、彼もまた私が考えているよりも長い月日を生きている。
少なくとも図書館創設時よりいる古株。当初はそれほど『訪問』をする人間と関わりは持っていなかったそうだが、『どの物語にも存在し、そこのみで存在する聖霊』として資料に残っている。
「持ち帰った『そそのかし』は、君のお友達が保管しているのか?」
「いえ、それが司書長に」
司書長より電話があった際、その件についても触れようとしたが、司書補たる私が立場的に関わっていいのかと迷い聞けず終い。いくら『お気に入り』とされていても、あの方と私の立場は大きく違うんだ。仮にも上が機密情報扱いをするならば、なおのこと。
「司書長……、『ブック』のネイバーか」
彼と司書長が顔見知りであるかは愚問だろう。図書館創設時よりいたんだ。同じ聖霊の『ブック』とも話が出来るほど彼は影響ある人だ。
司書長に関しては私たちの上司かつあの性格がため、入社当時より誰でも話す機会はある。しかして、上位聖霊『ブック』は、まさに雲の上の人だ。
世界において、上位聖霊は数体しかいない。ゲノゲさんの時からいくら位を上げていこうとも、上の下止まりの聖霊が多い。上位聖霊とは上の上ランクの聖霊を指す言葉で、このお立場にいる方の数も半ば固定されていると言っても過言ではない。
誰もたどり着けない場所にいるモノたち。
その中の一人に、私は彼も入っているのではないかと思っている。
セーレさんにしてみれば、私たちの世界が取り決めた『位』など関係ないとした考えだけど、物語界においていくら制限があっても『何でも出来る』とはこちらの世界では『かの方』に近しい能力だ。
本来なら、上位聖霊は敬うべき存在なのだけど、彼は性格が非常に、ひっじょーにっ、難ありな人なのでそこは置いておく。