物語はどこまでも!
「雪木ー!そこの宝石店で君に似合う結婚指輪を買ってきたんだー!」
「綺麗な花が咲いていたから摘んできたぐらいのノリで大きな買い物をするなあぁ!」
彼に撃退の選択肢を行使しておく。
単なるチョップにしても当たりどころが悪かったらしく、悶絶していた。
「やけに素直に言うこと聞いてくれたと思えば、こうした理由でしたか!?お金は大切に使うものですよ!」
「雪木は昇進しても安月給と言っていたものねぇ。俺と結婚し、この世界にいればお金持ち確定だよ?いくらでも、各世界にあった通貨を出せるのだから」
「まさか、指輪を買うために改竄能力を使ったのですか!」
「まだ使ってないよ。一冊の世界で一度使うと、次の周回(ストーリー)まで使えないからねぇ。もともと持っていた金貨を換金して、買ってきた」
ならいいと言うべきか。いや、よくないけど。
彼の能力は物語そのものを変える恐れがあるためか、二つの制限がある。一つ目は、物語界を崩壊させる直接的な願いの無効。二つ目は、一冊の物語界につき改竄能力は一度のみ使用可。……なのだけど、『制限』とは名ばかりで、彼の手による間接的な物語の崩壊は可能だし。一冊につき一度の改竄も、物語が終われば、また始まる(リセット)されるため、彼の改竄能力も使用可能になる。
だからこそのチート能力。物語界において、彼に敵う人はいないのだけど。
「きゃああああぁ、王子様よおおおぉ!」
女三人の黄色い悲鳴を受けたあげく、飛びつかれた彼は引きつった声をあげていた。
「きゃー、本物の王子様が来てくれたわ!」「きゃー、いつ以来でしょうか!」「きゃー、相変わらずの男前ですわー!」
「……、きゃーセーレさんモテモテデスネー」
「いやいやいやいやっ、冷めた視線を向けないでって!」
「きゃー、本物の王子様!あの時のお返事を聞かせて!」
「きゃー、私たちの誰かをお嫁に貰ってー!」
「きゃー、もういっそ三人で暮らしましょう!」
「……」
「おい、離れろ貴様ら!雪木、誤解しないでくれ!こちらは嫌だと言っているのに、言い寄られているだけなんだ!ちっ、まったく、人の迷惑を少しは考えてほしいものだな!」
「人の振り見て我が振り直せ、という言葉の意味が乗っている分厚い辞書を頭に叩きつけられたいので?」
まとわりつく女性三人から逃れ、私のもとに来る彼は例え意味を頭に叩きつけたところで変わらないのだろう。
私に寄り添うセーレさんの様子に、継母さんたちは察したようだった。