物語はどこまでも!
「ま、まさか、王子様には既にお相手が!?」
「ああ、そうだ。覚えておくといい。彼女こそが、俺の運命にして生涯!心の底から愛する俺のお姫様とは彼女のことだ!」
人に鳥肌を立たせるのが得意な彼だった。よくもまあ、恥ずかしいセリフを並べて。これでときめく女性なんかいないにーー
「あああっ、王子様にそこまで言われる女性がいるなんて!」「羨ましいですわ!」「憧れますわ!」
メルヘンな世界の住人にとっては言われたいセリフNo.1らしかった。
「セーレさん、この世界では王子様役でしたか?」
「俺は君だけの王子様でありたい」
「メルヘンはいいですから」
「本物の王子はいるのだけどねぇ。この世界のは、ああ、うん……。物語界の住人は、一冊一冊ごとに違ってくるから」
「本物の王子様はあなたよー!」と泣き咽ぶ方々を見れば、物語界においても彼はイケメンの部類に入るらしい。確かに身長も高くてかっこいいのだけど。
「ところで雪木。指輪をはめてみないか?え?いやだ?ああ、そっかぁ。やっぱり俺の皮を巻き付けられたいのか。だよね。俺たちの愛は一般的な物じゃないのだから、もっと上を目指さなきゃねぇ。いっそ、俺の薬指ごとプレゼントしようか?もちろん君に痛い思いはさせたくないから、そちらは切断しなくてもいい。ただ代わりにずっとそばにいてね。繋いでおくから」
性格が残念だ。
周りに対してはつーんとした素っ気ない態度で徹底しているのに、私に対しては甘い。ただの甘さではなく砂糖とシロップを混ぜ合わせドロドロに煮詰めた胸焼けするほど甘さ。許容できるものじゃない。
「もー、離れて下さいよ。私はシンデレラさんに会いに来たのですから」
本来の目的を果たす。継母さんたちも思い出したかのように私の行く手を阻んだ。どうやら意思は固いらしい。
「雪木、嫌な考えを巡らしているね」
「ええ、はい。あなたを囮にして屋根裏部屋まで行こうかと。あなたも離れて私として良いことしかありません」
「別の女に囲まれているところを見て、嫉妬したいのかぁ。分かるよ、雪木。俺も君に他の男が群がるものならば、八つ裂き後の消し炭にしたいと思う反面、数多の男から言い寄られてもなびかない俺一途な君の愛を感じたくなる時もあるから」
「分からない分からない」
考えを聞いても分かるわけのない頭を持つ彼が、私より一歩前に出る。
「でも、今はそばにいたいんだ。一秒でも離れたくないからね」
継母さんたちの前まで行き、よもや消し炭する気か!と止めようとすれば。
「俺に求婚したくば、魔人が住むランプ。人魚姫の声。悪魔の作った鏡を用意することだな」
竹取物語っぽいことをし始めましたよ。
「な、そんなもの聞いたことがないわ。い、いったいどこにあるというのです!」
「なんだ、その程度も集められないくせに俺に求婚しようとほざくのか。貴様らの愛など高が知れているな。俺は雪木のためならば、簡単に用意できる!」
だろうね。彼ならば。
しかして、そうとは知らない継母さんたちは彼に求婚出来るならとやる気満々。ドレスの裾を持って小走りで出て行ってしまった。
「雪木」
「鏡があったら見せたいですね。ドヤァな顔をしてますよ」
阻むものがなくなり、階段を上る。一階から二階、三階。左廊下つきあたりに、屋根裏部屋まで行けるハシゴが立てかけられていた。
「すみませーん、図書館の者ですが。シンデレラさん、いますかー?」
天井の扉が開く。
いたのは、既に舞踏会に行く準備を整えたシンデレラだった。先ほどの継母さんたちとは違い、華やかでないものの清楚さが際立つ綺麗なドレスを身にまとっていた。
流石は主役と言うべきか、肌の白さからして段違い。薄暗い場所にいても失われない美しさを持つ主役は。