物語はどこまでも!
「今回のストーリー(周回)は、私がシンデレラをやります!」
こんな一時しのぎ程度の解決策しか思いつかなかった。
三者三様の驚きをもらう。
無能な頑張り屋が出した案は、言葉通り。
『訪問』は見るだけでなく、一人の役柄を体験することも出来る。
決められた役は二人と要らない。本物のシンデレラは、ページ外でお休みとした形を取ってもらうがその間に出番を終えた魔法使いとーー
「私が物語を終わらせるまで、あなた方は愛の逃避行をなさって下さい!」
次の周回が来るまで、駆け落ちすればいい。
一時しのぎでも今の愛し合う二人を引き離したくはない。馬鹿げた案とも思った。けれど、私の頭では他に考えは及ばないのだからもうこれしかなく。
「ぷっ、あ、愛の逃避行って、今時どの本でも使ってないわよ。図書館の人はロマンチックな人が多いのかしら?ふふ、でも、悪くないわ。絵本の住人ですもの、お花畑な思考は好きよ」
肩を震わせて笑うシンデレラ。花も恥じらうとの言葉が似合う美しい笑顔だった。
「雪木……」
「分かっています。その場しのぎだと。次はどうするんだと。待ってください、考えます。思いつくまで、私がシンデレラの役をやり続けますから。今はそれで勘弁して下さい」
「損な役回りばかりを買って出るのは誉められたことじゃないけど……」
止めないあたり、諦めているのだろう。馬鹿だと怒ってもいいのに、彼は困ったように笑うだけだった。
「じゃあ、魔法使い。さっそく、このお嬢さんに素敵なドレスをあげなさい」
「は、はい!」
「え、ドレスは別に」
「シンデレラ、やるのよね?私に及ばずとも遠からずな美しさと妖艶さを持って舞踏会に行かなきゃ駄目よ」
「い、いえ、私の正装は勤務時のこの制服と決まっていて」
「おい、魔法使い。彼女にドレスを着せるならば、色は白水色。装飾は少なく、肌の露出も少なめだ。彼女はそのままでも美しい俺の花嫁だからな」
「も、もったいないですよ。聖霊さんの奥さま、結構スタイルいいじゃないですか。こ、ここは、マーメイドラインのドレスでそのメリハリを強調しましょうって」
「気にせず胸元も開けときなさいよぅ。上からストールでも羽織らせておきなさい。二人っきりの時、それを肩からスルスルーって落とすシチュエーションは燃えるわよ」
「確かに。ストールで手首を縛るのもいいな」
「あ、あのー、私の正装はこの……」
「少し黙っててなさいな!」
はい……と、彼らのドレス談義に大人しく従うしかなかった。自分で言い出したことだけど、早々に後悔です。