物語はどこまでも!

(四)

通算五着目のドレスで、ようやっと舞踏会に行く許可を得られた。

「あー、いやだいやだ」

こんなドレスと、肌の露出を最低限にするためストールを羽織っているが、それでも体のラインがくっきり出てしまうため恥ずかしさで死にそう。

早く終われと思いつつも、今はやっとお城についたところだった。

ネズミの御者が運転するかぼちゃの馬車に初めて乗れた感動も、このドレスのせいで台無しだ。早く終われ。

「シンデレラ、分かってはいると思いますが、12時までには帰ってくるんですよ」

「あ、はい」

お決まりの台詞には頷いておく。
これを本来やるべきはずだったシンデレラは、今頃魔法使いと駆け落ちしていることだろう。彼女たちのためにも、きちんと物語を進めなければ。

よしっと、気合いを入れ直し、お城へ向かう。

「歩きにくい……」

幼い頃はガラスの靴に憧れてはいたものの、実際履いてみれば、割れないだろうかとかヒールが思ったよりも高いとか、そんな不安で歩調がおぼつかなくなる。

ぎこちない歩き方に、お城へと続く庭園にいる兵隊さんや、貴婦人、公爵の皆様方が皆こぞってひそひそと。やっぱりおかしいですよね、はい。似合ってないのは百も承知ですから、責めないで下さい。

「穴があったら入りたい……」

そうしてセルフ埋葬するんだ。ダメだ、入れた気合いが抜けてしまっている。

頑張れ頑張れと、自分に渇を入れて、豆の木の巨人が入れそうな扉を前に「たのもおおぉ!」をするまでもなく、勝手に開いた。


舞踏会。
オーケストラが奏でる伴奏に合わせ、様々な人たちが可憐に凛々しく踊る素敵な場所がそこに広がってーーいなかった。

「……はあ?」

オーケストラが奏でるのは、パパパパーンとどこかでよく聞く定番ソングで、室内なのに白鳩と、桃色の花びらが舞い、踊る人はおらず、赤いバージンロードを挟んでみんな綺麗に整列していた。しかもか、今し方来た私に向かって「おめでとう」と拍手を送ってくる。

いきなりの場面の変化にも動じない。
何せーー

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