物語はどこまでも!
「待ちくたびれたよ、俺の花嫁!」
バージンロードの先で、満面の笑みで私を迎える白タキシード姿をした彼がいたのだから。
「物語、改竄……」
舞踏会を結婚式に変えやがったよ、あの人はあああぁ!
いつの間にか、あれほど時間をかけて選んだドレスがウェディングドレスに変わっているし、真っ白なブーケまで受け取ってしまった。これを彼の顔面に投擲しろと察します。
しかして、場の雰囲気というものがある。
参列者の皆様が涙ぐみながら、おめでとうおめでとうと言うものだから、この空気を壊しにくい。
笑顔を引きつらせつつ、彼のもとまで歩き。
「さあ、花嫁。俺たちに誓いの言葉なんか必要ない。もう既に俺たちの愛は永劫証明されているのだから、とりあえず口付けを交わして、二人っきりになろうーーがっ」
皆様の見えないところで、彼の足を踏んだ。ヒールで、親指をピンポイントに。
「どういうことですかーっ」
耳打ち際でひっそりと訴えてみるも、彼の笑顔は変わらない。
「どうって結婚式だよ」
「改竄能力をこんな風に使うだなんて、物語が崩壊しますよ!」
「しないよ。どうせシンデレラは遅かれ早かれ王子様と結婚するんだから、先に結婚式を初めてもいいじゃないか」
「良くない良くないです!」
とは言っても崩壊の片鱗はまったくないので、セーフということか。改竄の限界基準は相当緩いらしい……
「私がシンデレラになるって言った時、絶対あなたに反対されると思っていましたが」
賛成されて、彼もまた私の頑張りを応援してくれるんだと嬉しささえも芽生えたのに。
「反対に決まっているだろう?君が他の男と踊ったり、ましてや求婚までされる事態を黙って見るつもりはない。俺の愛する人を狙う奴はみんな自殺志願者だよねぇ。お望み以上に酷く殺してやる」
「本物の王子様は?」
「城の敷地にある時計台の短針に吊しておいた。今はまだ12時になるところだけど、1時2時3時と時が進むにつれて、短針は下がり、4時からズルズルと針の先端まで紐は下がっていき、日の出を迎える頃には地面に真っ逆さま。落下地点に割れたガラスを敷き詰めてもおいたよ!」
「王子様が物凄く不憫なので早く下ろしてあげて下さい!」
謂われない罪で罰せられる王子様の安否が気になるも、彼はこの結婚式が終わるまで助けに行かないようだ。