物語はどこまでも!
「どうしてこんなことに……」
「大きなお城で結婚式に挙げたいって言うのは、君の夢だったろう?」
「誰もそんな夢は見ていませんよ」
「……、そうか。でも、俺は嬉しいよ。君とこうして結婚式を挙げられることが」
あくまでも物語上のふりですからねっ。と出かけの言葉を呑み込んだのは、嬉しいと言う彼の顔が曇っていたからだった。
口元は薄く笑っているのに、何だか、今にもーー
「雪木?」
「あなたが、何を考えているのかまったく
分からない」
心を読み取れないから手を繋ぐ。こうすれば、彼は必ず喜んでくれるから。
「雪木のことしか考えていないよ。ずっと、ずっと。俺には君しかいなかった」
「あなたには、物語の中でたくさんのお友達がいるじゃないですか」
おめでとうおめでとう。その言葉の行く先は、私というよりは彼に向けたものだった。改竄能力が住人の心にまで影響したと言えばそれまでだけど、私は目にしている。
『良かったね』そう彼に言葉を投げかける住人たちを。
「でも、結局俺は“部外者”なんだよ。どこにも俺の居場所はない。だからこそ、どこにでも行けて顔見知りが多くなっただけの話だ」
「こんなにもみんなから愛されているのに、贅沢な人ですね」
「そうだね。ワガママだから、俺。雪木の唯一になりたいと思っている。君が俺にとっての唯一であるように」
キスされると思ったけど、彼は額を合わせるだけだった。
「ずっとずっと、君だけのことを考えていたんだ」
握った手に強さがこもる。もう離したくないと言わんばかりに。
前から、疑問だったんだ。
彼がどうして、ここまで私を愛するのか。
最初はからかわれているのかと思った。恋愛なんてと、彼を何度も突き放した。今だって、彼の想いに応えていない。なのに、今もこうして彼は私を愛してくれている。
好きでもない人に言い寄られたところで嫌な気持ちしかない。ーーはずなのに、どうしてか握ったこの手を私も離したくはなかった。
自分のことのはずが、まったく分からない。本当の私とやらを知っている彼なら、分かるのだろうか。
「ーー、あぁ」
だから、こうして寄り添ってくれているのかと私は目を閉じた。
彼の息遣いが額から鼻筋、そうして口元に感じられ、やがて。