物語はどこまでも!
12時を告げる鐘が鳴った。
互いにガクンと体から力が抜けた。緊張していたつもりはなかったけど、その実、手足が痛むほど力を入れていたらしい。慣れないヒールで倒れそうになったところを支えられる。
「この物語を崩壊させてもいいから、続きをしたいなぁ」
「思ってもないことを言わないように」
「そうだね。人に見せられるほど抑える自信はないから」
何をする気だったんだ……。
よっ、と立たせてくれた彼にお礼を言い、走り去る。
「どこまでも逃げるといいよ、俺の花嫁。何度でも追いかけて、捕まえよう!例え、地獄の果てに行こうとも俺は幾万の人間を殺して君に会いに行くから!」
「そんなおっかない台詞を言う王子様はいませんよ!」
とんでもないアドリブを入れる彼に叫びつつ、撤退。途中、兵士たちが待ちなさいと私の行く手を遮るが、話の都合上、ここでシンデレラは捕まえられない。脇を通るだけで抜けられた。
「おっと、靴靴!」
階段にてガラスの靴を脱いでおく。あれ、右と左どちらだったけ。片方だけ脱いでは走りにくいから両方でもいいかと脱ぎ。
「雪木ー!続きはいつどこでしようかー!」
するわけないでしょ!の意味を込めて、ガラスの靴を投擲しておく。王子様ー!という悲鳴が上がったあたり、ナイスヒット。やった。
「シンデレラ、早くお乗りなさい!」
「はいはいっ、乗ります!」
かぼちゃの馬車に乗り込む。馬がいななき、急ぐようにしてお城を後にした。
12時の鐘と共に、「たすけてー」という断末魔も聞こえたようなないような。ともかく。
「ふぅ、一段落」
文字通りだ。
場面が移り変わる。この本の場合、12時になり、シンデレラが逃げた次のページは。
『翌日』
気付けば私は、屋根裏部屋にいた。
本だからこそ場面の急な展開は当たり前にあるが、あまりの目まぐるしい変化についていけるようになったのはここ最近だ。今では何とか迅速な状況把握に努められる。