物語はどこまでも!
今頃、王子様がガラスの靴の持ち主を探していることだろう。ここで待っていれば、王子様が来て、私にガラスの靴を履かせ、昨日の女性はあなただったかと王子様は気づき、晴れて王子様と結ばれ、めでたしめでたし。
「おおー、こんなところにいたか、俺の花嫁!さあ、この指輪を君の左手薬指にはめよう!この指輪が合う者こそ、俺の花嫁にして、俺の愛する君だ!」
「話を改竄しない!」
王子様風のお芝居をしても、彼は彼(残念)だった。
「指輪ではなく、ガラスの靴ですよ。私にぴったりなガラスの靴を見て、初めてシンデレラと分かるのです!」
「そうは言っても、靴のサイズが同じの奴なんて腐るほどいるじゃないか。指輪の方が確実だ」
「指輪だって、同じサイズの人がいますよ」
「甘いよ、雪木。この指輪は、間違いなく君の物だ」
「はい?なにをーーって、指輪の裏に私とあなたの名前が彫られている!?」
確かにこれなら、世界に二つとない私の指輪となるけど。
「だからそもそも、お話しを改竄しない!」
「手厳しいな。多少の齟齬はなかったことにされるよ。君がガラスの靴を両方落としていったぐらい、些細なことだ」
「……、右足でしたか?」
「片方だけで良かったんだ。本来ならば、意地悪な継母たちによってシンデレラは靴を履くことも出来なかったのだけど、何かの拍子にシンデレラのポケットからもう片方のガラスの靴が落ちた。それを見た王子様がシンデレラにもガラスの靴を履くよう進め、そこで初めてーーってな話しもあるけど、内容はそれぞれだからね。その本の内容にあった大まかな流れだけを進めれば問題ない。だから、指輪も」
それは別問題だろうと、断っておく。
彼の言うとおり、物語は本の数だけ内容が断る。著者が違えば、同じシンデレラでもまったく違う内容になることもある。
魔法使いはおらず、白鳩が出てきたり。そもそもガラスの靴ではなく、皮の靴だったというお話もある。今回のシンデレラは、児童書にもなっているシンデレラのため、難しい内容はまるでない。だからこそ、体験版の『訪問』も出来る本となっている。
「あ、本物の王子様はどうしましたか!」
まさかそのままにしていませんよね!と聞けば、彼は部屋の隅を指差した。
「シンデレラぁ、シンデレラぁ!ま、魔法使いと駆け落ちするだなんて、ボクと愛を誓った仲じゃないかあぁ!」
ガラスの靴を抱きながら、涙を流す、王子様だった。
私が魔法使いとの駆け落ちを進めてしまったことで、今度は王子様に心の傷を作ってしまったか。軽率な行動だったと、謝罪を口にすれば、王子様が首を横に振る。
「いいんだ、図書館の人。か、悲しいけど、彼女は魔法使いを、選んで、それが彼女の、幸せなら、ずびっ、えぐっ、シンデレラあぁ!」
許しの言葉は貰ったが涙は止まらない。その……おたふく顔がふやけるほどの涙を流す王子様に何と慰めの言葉をかければいいことか。