物語はどこまでも!

「あんな風に不便なことも聖霊たちが解決してくれるし。ただ、次からは図書館建設時の際、司書長室は屋上以外でってアドバイスするかもしれないわねー。やっぱり、見てくればかりを気にしてちゃダメなのよー。大事なのは中身だわー」

実用性が大事だと、司書長は腰を叩きながら「よっこいしょ」と自身のいるべき場所に座る。

司書長の年齢は不詳だ。見た目からして30代とも言えよう美貌。しかして中身は野々花曰く、『老齢』とのこと。上位聖霊と交流があることから、何かしらの恩恵を受けているのでは?との噂もある人だが、ともすれば、先述の言葉にどういった返事をすればいいのか分からなくなる。

「あの、司書長。それで、お話しがあると聞いたのですが」

シナモンロールのおつかいは、ついでだ。大概、司書長からの指示は電話のみだがこうして呼び出されるからには何かしら重要なこと。ーー聞いておきながらも、予測はしていた。

「『そそのかし』の件なの」

にっこりと、先ほどの風の線のように綻んだ口と目元だった。

「この前、シンデレラの事件があったでしょう?報告書には、『そそのかし』は関与していないことになっていたけど」

「はい。シンデレラ、並びに登場人物に聞きましたが『そそのかし』は無関係なようでして。事件の原因は、報告書記載通りに『シンデレラの性格』から発生してしまったものです。以降、こんなことがないように口頭での注意のみとし、本件は終了となっています」


物語界でトラブルがあった際は必ず問題内容、原因、対処、対策といった報告書を記入することを義務づけられている。提出先は上司であって、そのほとんどは出張が多い司書長までには行かないものだけど。彼女がシナモンロール片手に見ている紙は、紛れもなく私が書いたものだった。

「雪木ちゃんの性格がよく出ている文字よねー。真面目で責任感が強いからこそ、仕事も多く任せられるわー」

「評価して頂き、ありがとうございます」

「ええ。そんな真面目な雪木ちゃんに質問があるのー。『そそのかし』について、どこまで知っているのかしら?」

動揺が指先に出てしまった。持っていたカップを音を立てて置いてしまう。

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