物語はどこまでも!

「うふふ」と母親そのもので虫と接する司書長。醜悪と戯れるさまは異様であるが、大事なのは中身と思えば可愛くも思え、て。

「し、司書長!な、なにか、虫から粘液みたいなのが!」

「ああ、よだれかしらー?撫でられてきもちよくなっちゃったのねー」

お口フキフキをする司書長の趣味には賛同出来なかった。

「やあねー、赤ん坊と同じよ。あなたも旦那さんと結婚して赤ん坊を産んで、お世話しなきゃいけないのよー」

「か、彼は旦那ではありませんっ」

「え?」な顔をされ、しまったと思った。この前の野々花の一件もあったせいで、旦那のワードでセーレさんを勝手に思い浮かべてしまった。司書長はセーレさんの話題を出したわけじゃないのに、自ら墓穴を掘ってしまった。

「あ、ああー、やっぱり結婚決まったのね!彼との子供なら美形間違いなしねー!」

「か、からかわないで下さい!だ、だいいち、彼は聖霊で、本の中にしかいなくて、で、できるか、ど、う、かも……」

墓穴に入りたい……。顔が赤くなっていくのを自覚してしまい、顔を逸らした。もうこの話は止めにしてほしいけど、耳に届いた含み笑いは追撃予告だ。

「そうねー。聖霊と人間の子供は聞かないわけじゃないけど、なかなか出来にくいのよねー。ま、彼は人型だし無理はないんじゃないかしら?プラトニックを貫くのもいいけど、聞くところによると彼ってかなり情熱的じゃそうじゃないー?物語界に行く度、クタクタになって帰ってくるあなたを見れば
もうそろそろかしら?って思っちゃうわー!」

「変な意味で捉えないで下さい!」

「あら?情熱的な告白から何とか逃げようとしてクタクタなんじゃないのー?どんな意味かしらー」

「失礼しますっ」

「冗談よ、じょーだん。ふふ、本当にあなたは可愛いわねー」

本当に人をよくからかう人だ。憤りの域まで達するも、ほんわかな笑顔を向けられてしまえば肩の力も抜ける。

「さて、『そそのかし』はこうして私が預かっているから、無理して持ち帰ってこないでねー。お母さんはこれ以上、赤ちゃんの面倒を見ることが出来ないからー。母子家庭で忙しいのよー」

冗談めいた棒読み口調で『そそのかし』をあやす司書長。シナモンロールまであげていた。

危険回避がため、これ以上こちらに未知を持ち込むなということだとはよく分かる。

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