物語はどこまでも!
「危険故にまだ試していないが、だからこそ試す。私はこれから、この絵本に『割り込み』をするつもりだ。故に今後の指揮件はお前に任せる」
『ブック』の奇跡が崩れている場所へ、野々花は行くといった。自分に何があってもいいようにと、保険(後任)を残して。
「の、ノノカ!ノノカが行くなら、某も!」
「見くびるなよ、マサムネ。危険地帯にわざわざ大切な家族(お前)を連れて行く私ではないし、お前はそれほど大切であると自覚するといい。お前も雪木と共にこの場を任せた。なに、心配はいらないさ。何かあろうとも何とかしてくれるのが今の世の中だからな」
鼻で笑ってみせる彼女は頼もしい限りだけどーーその案は呑めない。
「あなたには行かせられません。進んで危険(刺激)へ進むあなたには」
彼女の腕を掴む。一瞬、目を見開くもすぐに細められた目とかち合った。
「だったら、お前が行くというのか?」
「そのつもりです」
「一生、目覚めない可能性とてあるんだぞ」
「重々承知です」
「……。だったら」
「でも、あなたには行かせられない。刺激を求める人を未知なる世界に放り込むだなんて出来ない」
いつかの話を思い出す。あの時はやはり平凡な毎日こそが幸福であると、本人も納得したが、逆説、“平凡な毎日が続いているからこそ消えない欲求”となってしまう。
もちろん、彼女が欲のためにこの子を助ける口実にしているつもりがないのは分かっている。野々花の性質は正義そのものだ。王道物語に相応しいほどのヒーローだけど。
「止めない限り、何があっても野々花は進み続ける人だから」
果敢すぎることも考えものだった。刺激を求める怖いもの知らずを行かせられない理由がこれだ。その先が崖であろうとも、“歩いて行ける”ーー何とかしてみせると思っているのだから。
「そう言うお前も、私からしてみれば危なっかしい奴ではあるがな」
掴んだ私の手を払う野々花。
「互いに譲らないならば、ここは一つ決闘をし、強い者が危険地帯に挑むのが得策だろうがーー身体の強さだけでどうこう出来る問題ではないからな。この子を確実に助けられるのはどちらかとなれば、お前の方が確実だろう。私に引けを取らない果敢さ、身体の強さは脆弱そのものだが根性はある。くわえてあちらの世界には、万能たる旦那がいるしな」
「旦那ではありませんから」
訂正しつつ、野々花の横を通り過ぎる。
止める人はいない。この場での適任者が行くだけの話だ。
寝ている女の子の本に右手で触れ、『ブック』から貰った白い羽を左手に。
「お前がダメならば、次は私が行こう。ーー安心しとくがいいさ。そちらの世界でもまた、女同士語らえるからな」
最悪の事態さえも大したことはないと皮肉めいたことを言う野々花には笑っておく。
そうならないためにも、また平凡な毎日に戻るためにも、私はまぶたを深く閉じた。