物語はどこまでも!
(三)
鬼が出るか、蛇が出るか。
何が来てもおかしくない世界に飛び込んだつもりでいたが、目を開ければ人々が住まう平和な街並み(日常)が広がっていた。
果物やパンなど露店が並ぶ通りの真ん中で辺りを見回す。特に変わったところはない。起きない女の子の物語に“割り込み”をしたため、近くにその子がいても良さそうなものだが、それらしき子どもはいなかった。
「すみません、図書館の方ですか?」
声をかけてきたのは、子連れの女性だった。果物が入ったカゴを腕に下げ、神妙な面持ちで話しかけてきた。
「はい。図書館『フォレスト』の彩坂雪木と申します」
「図書館の方がいらしたなら、もう物語が進んでいないのをご存知なんですよね?『笛吹きさん』はどうなりましたか?」
トラブルシューターとしても認知されている図書館職員。それが来たとなれば無論、起こっている問題を解決してくれると思うだろう。
しかして、こちらとしては初耳の情報があった。
「物語が進んでいない?」
「ええ。ネズミたちが湖に行き、次は子どもたちがというところなのですが……」
「ふえふきさん、やりたくないってないてたの」
お母さんの言葉に続けて小さな少女は言う。
「ふえふきさんはやさしいから、やりたくないって」
「この子もまた湖に行く予定なのですが……。物語が壊れないように、またこの子と出会うためにも必要なことではあるんですが、ここ最近、笛吹きさんは泣いてばかりで。母親として子どもを湖に行かせるのは嫌なことではありますが、笛吹きさんの様子を見ると“誰も悪くない”と思って、物語を進めようと私や、街のみんなも思っています。けど」
肝心の笛吹きさんがそのことを拒絶している。
物語が停滞しているからこそ、『訪問』をした女の子はここにいるのか?ーーそれでも、あちら側から起こすことは出来るはず。
「分かりました。とりあえず、笛吹きさんに会ってみます。彼はどちらにいますか?」