物語はどこまでも!
「ーー、雪木!」
目を丸くして私を見る彼と。
「『そそぎ』?」
相対するかのように立ち尽くす青年。
大木に手をつき、息を整える。あっけらかんとしている二人に対して自身の疲労が無意味とは思わない。
「なんてもの、持っているんですか」
いつも私を抱きしめる彼の手には一本の斧が握られていた。湖近くで斧だなんて、木こりの絵本ではないのに。
「何度も言ったじゃないですか、武力行使はやめて下さいと」
冗談めいた言葉で話すのはこの空気に呑まれないためにもだった。
いつもの空気を。何だかんだ言いつつ私にも物語の住人にも優しい彼を求めて出た言葉だけど。ーーそれらを分かった上で、彼は首を横に振った。
「悪いが。もうこいつはーーウィルは後戻り出来ない場所まで来たんだ」
ウィルと呼ばれた青年は、彼の言葉に肩をすくめて笑った。
「酷いな、セーレ。今更……今更だよ。さんざん僕が『終わらせてくれ』と言ったのに。“こんなことをして初めて”、殺そうとしてくれるだなんて」
こんなことをしてと目配せする視線の先には大きな洞窟があった。その入り口にたれかかる少女ーーこの世界に『訪問』し起きない少女がいた。
今すぐに安否を確かめたいところだが、それは彼に止められる。あいつに近づくなとした腕と共に言葉が投げかけられた。
「安心してくれよ眠っているだけ。大事な交換材料だからね」
クスクスと笑うウィルの顔だが、その笑いはひどく枯れきっているように見えた。
聞こえる声すらもか細く、今にも軋みをあげて折れそうな枯れ木の体で、ウィルは引きつった笑い声をあげていた。
「セーレと図書館の人が来てくれるように、この子には手伝ってもらっただけだよ。傷つけるつもりなんかないーーああ、でも。そうか」
私とセーレさんの様子を見て、そうかそうかと。
「“良かったね、セーレ”」
物語の住人たちから口々に聞いた祝福の言葉のはずが、ウィルが発する音には憎悪が含まれていた気がした。
「『未来には期待しておくものだ』。とは、君の言葉だよな、セーレ。正にそれを証明したのだから、君は本当にすごいなぁ。絵本の中の決められた奇跡(セオリー)じゃない。そんなことが本当に起こるだなんて」
言葉は賛辞。唇は綻び祝福を。しかして彼を見る眼差しは凍てついていた。その眼差しは、彼だけでなく私にまで向けられる。
「図書館の誰かが来ればいいと思っていたが。まさか君が来てくれると思わなかったよ。ーー雪木ちゃん」