小さな愛の形
朝、何時もよりも速くに目が覚めてしまった。

外はまだ暗い。静かだ。

この時間は世界で独りきりになってしまった様に感じてしまう。

この暗闇と、この静けさ。

独りを感じさせるのに充分ではないだろうか。

自分の見ている世界が、今の世界の全てのように思えた。



外が明るくなった。

その頃には、静かだった街も活気を思い出したかのように、復活していた。

母も父も忙しそうに早足で狭い家を、動き回っていた。

僕と二人のスピードが余りに違い、時間軸までも違うかとさえ思わされた。

そんな二人のスピードが遅くなり、僕のスピードに合う頃には、僕は家を出なければならなかった。

学校へは毎日歩く。

見るものの風景が、同じようで変わっている。

何気ない日常が、何気なく変わっていく。

今の僕は、何気なくでも、少しでも変わっているのだろうか。

歩いていく自分と、本当の自分がどんどん離れていく気がする。

そんな異形な感情を抱きつつ、僕は学校へ行く。

近くないこの道のりを歩くのは、容易い事ではない。

だが、僕は自分の中にある異形な感情を楽しんでいる様に思う。

だからこそ、僕は毎朝歩く。

遠くても、疲れても、僕は歩いた。

僕自身分からない感情と、向き合う為に。

そんな事を言うと、変人扱いされそうだ。

今井くんに言った事があったが、案の定、変人扱いされた。

目を見開いて、「どうしたの…お前?」と呆れた声が返ってきた。

誰かに分かってもらおうなんて、思ってはいない。

きっと、誰にも分からないだろう。

それでいい。ただ僕一人が分かっていれば、それでいいと思っていた。

『愛』を知らない僕は、それでいいと思っていた。
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