小さな愛の形
久々に食べたショートケーキの味は、なかなかのものだった。

それがお店で食べたからなのか、そのお店が美味しいのかは分からないが。

フワフワのクリームと苺の酸味が丁度良かった。

僕が余りにも美味しそうに食べていたからか、彼女は笑って僕の方を見ていた。

「気に入った?」

「とっても。」

その言葉に彼女はとても満足そうな顔をした。

その顔を見て、僕はなんだか安心した。



ケーキを食べ終えると、どうしても喉が渇いてしまった。

何か買おうと、席を立つと店員さんが近付いてきて、机に珈琲を置いてくれた。

僕が止まっていると彼女が笑い出した。

「ケーキ食べると喉が乾くから、先に頼んどいたの。」
と言った。僕はその言葉に甘えて、珈琲を飲む事にした。

何時もよりも苦く感じた珈琲の味は、何時もよりも美味しかった。

僕が満足そうにしているのを見て、彼女は嬉しそうに笑った。

「ここだけはね、ゆっくりと時間が流れるみたいなの。

そんな空間って、落ち着かない?」
と少し笑った。

その顔を見て、僕は少し心がほぐれた。

「ここは、静かなだ。自分の事だけを考える事が出来る。

他の人は、きっと自分が思っているほど自分を見ていないから。」

僕は、自分が思うようなこの状況を、言葉で説明しようと頑張る。

しかしこの状況は、いくら頑張った所で表せるものではない。

うんうんと彼女は頷いていた。減ってしまった珈琲が虚しさを覚える。

僕は少し先にある湖を見ながら、最後に珈琲を飲み終わった。
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