アウト・サイド
そのサイクルから、時折弾かれる魂がいる。
生きることも死ぬことも放棄した存在。
それが私たち、"番人"だ。
"番人"は、サイクルの外側で、何百年も死ぬことなく、他の"生きる魂"を見守り続けている。
主に人間の死を取り扱い、生まれる者、そして死して還る者のどちらのバランスも崩れないように、円滑に魂をサイクルに還すのが番人の仕事だ。
「次、○○病院。84歳の婆さんが老衰だってよ」
ざわざわと騒がしいオフィス内で、せわしなく会話が飛び交う。
「うえ。また婆さんかよ〜誰か代わってくれよ」
資料の山で覆われた机を掻き分け、
ひょっこり顔を出したのは、"番人"のアラタだ。彼は怪訝そうに眉根を寄せ、やる気のない声を出した。
黒髪の若い青年の姿だが、彼は既に番人になって50年以上も経っている。
口は悪いが、面倒見が良い彼の性格はお年寄りにウケが良い。
そのため、気に入られて霊体に付きまとわれることも少なく無いようだ。
「ユキ、これ行けよ」
アラタが先ほどの資料を私の方に差し出した。
「嫌よ。忙しいの」
私はパソコンで情報を打ち込みながら、
彼を見もせずに突き放した。
「次のリリースが15時から入ってる。その後に2件も」
「はいはい、わぁったよ」
ため息を吐いて、アラタは資料をまとめて黒いカバンの中にしまった。
そして気怠そうに自分の席から立ち上がると、彼は思いっきり伸びをしてオフィスを出て行った。
人間界にこっそりと構える番人のオフィスは、一つの地域で二つほどあり、人工の多い都内には4つの支部がある。
私のいるオフィスは、その中の一つ。30人体制で動いている私たちは、私たちはどこからともなくパソコンに入ってくる"寿命"の情報を紙に印刷し、担当ごとに振り分け、そして自ら魂をサイクルに還す作業ーーリリースを行なっている。
やっていることは死神と呼ばれてもおかしくないのに、鎌や神通力などで魂を狩るようなことはしない。
番人の仕事は、かなり事務的で現実的な作業も多いのだ。
私たちの見た目は、人間とほぼ変わらない。魂の個性によって、老若男女、性格も様々だ。
ただ、人間と違うのは、私たちは"サイクルの外にいる"ということだけ。
サイクルとは、命の循環のことだ。
つまり、その外側にいるということは、
死にもしないし、何かを食べたり、寝る必要もないということだ。
そして、誰かを愛することも、愛されることもない。
何かを強く願うことも、欲望もない。
生きもせず、死んでもいない。
螺旋に弾かれた、半端な魂。
それが私たち番人なのだ。