アウト・サイド
「では、ご説明させて頂きます。死したあなたには、"帰還"する義務があります。サイクルの中で生きる魂は全て……」
「ああ、もう。なんでそんな棒読み? 人が初めて死んだっつーのに、あんた感情とかないわけ?」
腰に手を当てて、雨宮は私の顔を覗き込む。
「お気持ち痛み入ります」
「って、それも棒読みだし…」
こんな言われようも慣れっこだ。
私は気にせずに続けた。
「あなたが死を受け入れられるようになるまで、私は待つ義務があります。ただし、期限は49日まで。それ以降は強制送還措置が取られます」
「へぇ〜。49日ってそういう意味なんだ」
雨宮はどうやら元々お気楽な性格らしい。
死を受け入れるのが早く、死後の世界について知ろうとする姿勢が見受けられる。
まあ、実際そういう人間がほとんどなのだが、中には49日を過ぎても死を受け入れられない人も多い。
「それまではどこを浮遊しいても構いません。霊体では、思い描けば世界各国、過去未来どこにでも行けます。ただし、"狩人"には気をつけてください。あまり過去に執着しないように。49日目にはお迎えにあがりますので、この地を離れる心の準備をしておいてください」
「狩人って?」
「魂を喰う悪魔です。でも、ほとんどの人は彼らに見つかりません。彼らには心に深い闇を抱えているものしかロックオンできない。あなたは、まあ…大丈夫でしょう」
「ちょっとそれどういう意味?」
お気楽な人だと思っていることが表情に出ていたのか、雨宮は心外だとでもいうように声を出した。
「狩人に狙われる確率のある人間には、必ず護衛が付きますので。そういう方は、回される部署が違います。つまり、私のいる部署に回されたあなたにはその心配がないということです。それでは……」
一礼してその場から去ろうとすると、腕を掴まれた。
「ねえ、あんたの名前は?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、雨宮が言った。
「ユキと申します」
「へえ、あはは! 俺はハルトだから、ハルって呼んでよ」
ーーハル?
私は思わず顔を上げた。
子犬のような丸い瞳が微笑んでいる。
何故か、普段何も感じることのない胸がズキンと痛んだ。
脳裏に、"あの子"の顔がチラついた。
「あんたは冬で俺は春。夏と秋もそろえば春夏秋冬ユニットとか出来そうじゃない?ーーって、大丈夫?」
私の顔を見て、雨宮は驚いた様子だった。
よっぽど酷い表情をしていたのだろう。
「いえ、なんでもありません」
浮かんだ記憶をかき消すように、私は首を横に振った。
「いや、なんか…どっか悪いんじゃないの?」
「平気です」
納得が行かない様子で私を見る雨宮だが、私は直ぐに無表情になって言った。
「それならいいけど。あ、ねえ。もし、俺からあんたの所に行くにはどうしたらいいの?」
背を向ける私に、雨宮の声が追いかけてくる。
「私の顔を思い描いて頂ければ」
「え?そんだけ?」
「はい、そうです。思い描いた場所に行けますので」
「へぇ、なんか自由だね〜」
私は返答しなかった。
先ほどの胸の痛みが気になって仕方がなかった。
「またね、ユキちゃん」
調子のいい声を出して、雨宮がニコッと笑う。
私は目を閉じて、次に向かう場所を思い描いた。