君と、ゆびきり
病院に駆けつけると、いつものノックの合図が返ってこなかった。


嫌な予感が胸をかすめる。


あたしはドアの前で小さく深呼吸を繰り返した。


病院特有の食毒液の匂いが鼻孔を刺激する。


大丈夫。


きっと風は眠っていて合図を返せないだけだ。


自分にそう言い聞かせて、ドアを開けた。


ベッドの上に風がいた。


風は薄く目を開けてこちらを見ている。


その目は充血していて、うっすらと涙の膜ができていた。


風の頭の下には茶色い氷枕が敷かれている。


「熱が出たの?」


そう聞きながら病室へ足を踏み入れる。


風が小さく頷いた。


「そっか」


あたしは短く返事をして、椅子にこしかけた。
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