君と、ゆびきり
☆☆☆

あたしはその日の内に風の病室を訪れていた。


いつものノックは今も健在だ。


「千里、なんか難しい顔してる」


病室に入るとほぼ同時にそう言われ、あたしは自分の頬に手を当てた。


「そう?」


「うん。変な顔してる」


「失礼ね!」


あたしは風を軽く睨み、ベッドに近づいた。


「なにを悩んでるの?」


「風のこと」


そう言うと、風は目を大きく見開いた。


「俺、千里になにかしたっけ?」


記憶をたどるように視線を巡らせる。


「ううん、なにもしてない」


「じゃぁ、なんで俺のことで悩んでるの?」


「風って、海に行った事はある?」


「海……?」


風は首を傾げてあたしを見た。


その目はひどく澄んでいて、見つめられると居心地の悪さを感じるほどだった。
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