君と、ゆびきり
「海はね、泳げる人ばかりが行く場所じゃないんだよ? みんなで遊ぶ。ただそれだけでも行っていい場所なんだから」


「へぇ、そうだったんだ!?」


あたしの言葉に風は本気で驚いているようだった。


その様子にチクリと胸が痛む。


あたしたちが外の世界で当たり前に知っている事、経験してきたことを風はなにも知らないまま生きているのだ。


外の世界を知らない風はきっとどこまでも真っ直ぐで純粋なんだろう。


その白さの代わりに、大きな病気を持ってしまった。


「ねぇ風、海に行こうよ」


あたしは風の手を握りしめてそう言った。


あたしよりも細くなった指先。


その小指には今でもちゃんと指輪がつけられている。


「でも、なぁ……」


風は口ごもり、俯いた。


その視線の先にあるのは真っ白な布団だけだ。


「風、海に行くと風が変わるんだよ」


「へ?」


風は布団から顔をあげ、そして首を傾げた。
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