君と、ゆびきり
☆☆☆

3年生になると途端に実習が増えて来る。


卒業式には立派なナースキャップを被せてもらうために、あたし達は必死になって食らいつく。


学校行事よりも、勉強の方が断然大切になる時期だった。


こんなに忙しくなるとは思っていなかったから、あたしはどんどん風から遠ざかって行った。


風との関係が壊れていなくても、風と会う時間はほとんどなかっただろう。


そしてそれは唐突に訪れた。


いつものように実習を終え、ヘトヘトになって家に帰って来た時だった。


薄暗くなった自室の中にぼんやりと人影が見えて、あたしは一瞬息を飲んだ。


「久しぶりだね」


その声には聞き覚えがあり、同時に懐かしさを感じた。


「チアキ」


あたしはその子の名前を呼びながら電気をつけた。


部屋の中央に立つチアキは真っ赤なワンピースを着ている。
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