君と、ゆびきり
☆☆☆

卒業式の前日は午前中だけ登校する日だった。


卒業式の注意などを聞くだけの簡単なホームルームがある。


それならプリント一枚で十分だと思うのだけれど、中学校生活がこれで最後になると思うと、やはり参加したいという気持ちも強かった。


しかし、この日朝から妙な違和感や幻聴に襲われていたあたしは、万全ではなかった。


学校へ到着したものの、気分がすぐれない。


脳味噌を誰かにかき回されているようなメマイをずっと感じていた。


「以上が卒業式の予定と注意事項です。なにか質問はありますか?」


先生が説明を終え、一息ついてからクラスメートたちを見回してそう言った。


「特にないみたいですね。みなさん、明日が最後ですが風邪などひかないよう気を付けて登校してきましょう」


それは先生が終りのホームルームの時にいつも言っている言葉だった。


3年に上がって担任になってから毎日聞いていたセリフ。


もう記憶してしまっているし、そのセリフをふとした瞬間に思い出すこともあった。


でも、今回は何かが違って感じられた。


先生の言葉がダブって聞こえるのだ。


壊れたスピーカーの左右から、少しの時間差を置いて同じ言葉が繰り返される感覚。
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