君と、ゆびきり
なにせ生まれた瞬間からずっとお世話になっていた場所だ。


そこから卒業できるという事実が、まだ信じられなかった。


先生にお礼を言って診察室を出る。


お母さんはさっきから上機嫌で、今日はお祝いをすると言って張り切っている。


「あ、お母さん……」


支払のため受付に移動するお母さんの背中に呼びかけた。


「あぁ。いいわよ、行ってらっしゃい。ちゃんと挨拶してこなきゃね」


お母さんはあたしがなにを言いたいのかすぐに察してくれて、そう言った。


挨拶……。


その言葉にすこしだけ戸惑いつつも、あたしは入院病棟へと足を向けた。


大きな院内を小走りに進んでいく。


昔はこれだけの運動でもすぐにバテてしまい、先生から怒られていたものだ。


だけど、今はこのくらいじゃどうってことなかった。
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