拾われた猫。Ⅱ
トシは表情を歪めていた。
そして私を見た。
私に出来ることは彼に笑いかけることだけだ。
ギリッと歯が擦れる音が聞こえた。
「………好きにしろ」
たったそれだけの言葉を吐き出すのに、どれ程の表情をしているのか、彼は自分で分かっているのだろうか。
その表情だけで、私は救われるのだから。
「巫山戯るな…!」
急に掴まれた両肩に倒れそうになったが、掴んだ腕はそれを許さなかった。
私よりも大きな彼を覗き込む。
哀愁漂う雰囲気とは違って、私を見ようとしない下を睨みつける表情。
「…雨ちゃんが行くなら…、僕も行く」
呟くように、でも決意のこもった声は私を困らせる。
「駄目だ!!!」
けれど、それを一喝した声が私の揺れを落ち着かせた。
「…もう上の指示なんかどうだっていいよ。
近藤さんの身に何かある前に何とかしなくちゃ」
一見冷静に思えるが、力の篭った両肩の手は総司の焦りが極端な程表れていた。