拾われた猫。Ⅱ
「さっ!
行きましょ?」
さっきの雰囲気は嘘のように、くるっと表情が変わる。
いつものような人懐っこい笑み。
それに流されるようにハッとして頷く。
くるりと背中を向けて歩き出す翔の後を追う。
私よりも年下の彼が、たまに分からない時がある。
彼は私に抱きついたり、懐いているような素振りを見せるけど、自分の懐に入ろうものなら先程のように拒絶される。
何かを隠していることには違いない。
でもそれを見せては隠すのは、どういうことなんだろうか。
「雨さんは自分が幼い時のこと覚えてるっすか?」
不意の質問に身構えておらず、目を見開く。
「…ほとんど…覚えてない」
「…そうっすか」
私には分からない。
私の前を歩く彼の表情が。
私に隠す彼の心が。
こういう時、どうしていいか分からない。
その時、ある人の顔が浮かぶ。
あの人なら、彼の心を迷わず見つけられるんだろうか。
私にそうしてくれたように…。