拾われた猫。Ⅱ
彼の行く方向には、美華が立っていた。
翔は首を傾げ、美華の前に止まる。
神妙な面持ちの彼女に、翔の笑みが少しずつ消える。
「…新撰組のことについて調べるんでしょ?」
「雨さんに教えるのは無しっすよ?
一葉さんの本意じゃないと思いますし」
美華の顔が険しく歪む。
「どうして…?
雨ちゃんにとっては重要な話じゃない!」
今にも掴みかかる勢いの彼女の前に両手を突き出し、苦笑を浮かべる。
「駄目っすよっ。
今はちゃんと留まってくれてるっすけど、悪い話の場合は美華さんだけじゃ雨さん止めきれないでしょ?」
「それはっ…!
………なら私にだけでも教えてちょうだい」
着物の袂を探り、膏薬を取り出して少年の頬にスッと塗りつける。
軽く睨みつけると踵を返し、「頼んだわよ」と彼女はまた香月雨がいる部屋の方へ戻って行った。
「え〜…」と後頭部を掻きながら、彼女の行った方向を眺める。
「一葉さんの考えもあるけど、優しい美華さんのお願いも叶えてあげたいしなぁ〜」
また歩みを進める彼の口から、溜め息が寂しく漏れていた。