拾われた猫。Ⅱ
そんな瞳も気のせいだと錯覚しそうになるほど早く、彼はパッと私から手を離してニコリと笑った。
「僕は、忘れてた事を聞きに来ただけだからもう帰るよ。
おやすみ、雨ちゃん」
頭を撫でて、踵を返した。
その背中は寂しさが残っていたことに気づいたのに、何も出来なかった。
「ノア……、きっと総司は私を慰めに来たんだね。
……総司ってよく分からない」
クスクスと笑いながら、沈む心に蓋をした。
総司が寂しさに耐えるように、左之が我慢するように、私も何かを閉じ込めないといけない気がしたから。
「それより、『ウザい』ってそんなに珍しい言葉とは思えないけどね」
何気なく発した自分の言葉に引っ掛かりを覚える。
この世界では〝ウザい〟は使われない。
誰も意味が分からない程には。
一瞬、風も音も止んだ気がした。