拾われた猫。Ⅱ
せめて私がここで〝歌え〟ば…。
いや、駄目だ。
だからといって兵士に勝てる絶対的な保証がない。
更に足でまといになる。
体の力がどんどん抜けて、握っていた桜牙が離れていく。
「一葉…」
今唯一の希望を口にする。
来てくれるかどうかも分からないのに。
彼は私を置いていったのに。
記憶がフラッシュバックする。
幼い時、一度だけ一葉の腕を掴んだことがある。
何の為にやっているのか分からない稽古から逃げたくて。
一度でいいから、こっちを振り向いて私の心を助けて欲しくて。
でも一葉はその手を払った。
その時分かった。
縋ってはいけなかったと。
「一葉」
呼ばずにはいられない。
分かっているのに。
分かっているから呼んでしまう。
「一葉…!」
彼ならこの状況を打破できる絶対的なんだと。
出来る限りの声はたかが雨に掻き消される。
降り続ける雨に心が絶望する。
私は………無力だ……。