拾われた猫。Ⅱ
仕事も今日は終わり、何気なく廊下に出た時だった。
すぐそこを歩いていた男とバチッと目が合った。
「左之」
反射的に呼んだ彼の名前。
いつぶりだろうかと錯覚するほど、長いこと呼んでない気がした。
心なしか、ホッとした表情を見せた気がした。
「菊さんは?」
「今は1人で町に行っているみたいだな」
片手だけを腰において、力無く笑った。
いつもは力強い彼がこんなにも儚く見える。
手を伸ばさずには居られなかった。
もう片方の手を両手でギュッと握る私に驚いたのか、目を見開いて私を見下げていた。
「次は私が左之を助けられればって思ったけど、どうすればいいのか分からない。
だから、……今はこうしたい」
両手に更に力を込める。