イジワル社長は溺愛旦那様!?
上司と部下で、内緒の夫婦
「やりなおしてください」
冷ややかな上司の声に夕妃(ゆうひ)の心臓はドキッと跳ねた。
彼の声は社長室の窓の外の木枯らしよりも冷たい。
デスクの上に置かれた資料に、夕妃はおそるおそる視線を送る。
「なにか、間違ってましたか……?」
「なにか?」
上司――エールマーケティング株式会社の社長である神尾湊(かみおみなと)が、眼鏡の奥で切れ長の目を細める。
ストレートの黒髪に、全体的にすっきりと整ったクールな顔立ち。メタリックフレームの眼鏡と仕立ての良い三つ揃えがよく似合っている。
彼が椅子に座って、長い足を優雅に組むとそれだけで様になるが、今はそんな状況ではない。
半日かけて作成した、来週の大事な会議の資料がものの五分で突っ返されようとしているのだ。
(それなりに出来たと思ったんだけどな……)
夕妃は軽く……いや、結構落ち込みながら、大きな窓を背にして座っている、上司を見つめた。
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