イジワル社長は溺愛旦那様!?
夕妃はぼんやりとまぶたを持ち上げる。
全体的にもやがかかっていて、よく見えない。
(やっぱり夢……)
「夕妃さん、大丈夫ですか。溺れてません?」
(ん……? おぼれるってなにが?)
少し離れたところから、はっきりと男性の声がする。
声のしたほうを見ると、すりガラスの扉の向こうにかなり長身の人影が見えた。
(ここは……)
体を起こそうとすると、ちゃぷんとお湯が揺れる。
(ああっ!?)
どうやらお風呂でうとうとと眠ってしまっていたらしい。
そしてあの扉の向こうにいるのは神尾だ。
おそらく帰宅して夕妃がバスルームにいることはわかったのだろうが、ずっと無音なのを不審に思って様子を見に来たのかもしれない。
(大変っ!!)
ようやくすべてを理解した夕妃は、体を起こそうとしたのだが――。
慌てすぎて、浴槽をつかもうとした手が、滑った。
(きゃあーーー!)