イジワル社長は溺愛旦那様!?
ザブンッ!
体を起こすどころか、バスタブの中に上半身が沈む。大きな水音がして、余計慌てたが、バスタブが大きくてなかなか体が起こせない。
ザブザブと激しい音だけが響く。
「夕妃さん!」
ガチャンとドアが開く音と、神尾の声がハッキリと聞こえる。
(う、うう、う、嘘でしょー!)
夕妃はバスタブの底に倒れたまま、スーツ姿の神尾がそのままバスタブの中に手を入れて、自分の体をバスタブから抱き起すのを呆然と見ていた。
そう、自分のことなのに、あまりにもショックでもはや他人事のように、自分の身に起こった出来事を見つめていたのだ。
「お湯は飲んでない!?」
神尾はてきぱきした様子で裸の夕妃を大きなバスタオルで包むと、そのまま軽々と抱き上げて、夕妃が使わせてもらうことになっている部屋に飛び込み、ベッドの上に横たわらせる。
「ゲホッ、ゲホッ……!」
激しくせき込こむ夕妃の背中を、神尾の大きな手が撫でる。
「救急車を……」
それから神尾は胸ポケットに手を入れ、
「くそっ、水没してる!」
と叫ぶと、スマホを床に投げ捨てた。