イジワル社長は溺愛旦那様!?
(きゅ、救急車っ!?)
さすがにこの状況で救急車を呼ばれては病院の業務妨害になりかねない。
夕妃はゲホゲホとせき込みながらも、慌てて神尾の腕をつかみ、必死で首を振った。
その様子に、神尾は怪訝そうに眉をひそめたあと、ベッドの上の夕妃の顔を両手で包み込み覗き込んだ。
「俺の声、聴こえる?」
(き、き、聴こえます!)
声を出そうにももちろんでない。
だが夕妃は大きな目をしっかりと開けて、激しくうなずいた。
(私、なんともありません!)
「――もしかして、お風呂で寝てた?」
(ば、ばれたー!)
目をむく夕妃だが、その瞬間、神尾の表情が緊張からゆるむ。
「ああ、そうか……いや、いくら声をかけてもリアクションがないから……もしかして溺れているのかと思ったんだ……いや、そうか……」
神尾は苦笑した後、そのままうつむいた。
「その……俺の勘違いだ。本当に、その……申し訳ない」
(ええっ!?)
どう考えていても、退院したてのくせに他人の家の風呂で寝る自分が悪い。