イジワル社長は溺愛旦那様!?
夕妃はさらに慌てて、神尾の肩に手を乗せる。純粋に顔を上げてもらおうと思ったのだ。
だが神尾は決して顔をあげようとしなかった。
むしろうつむいたまま立ち上がろうとしたから驚いた。
(違います、神尾さんは悪くないです、私が悪いんです!)
おそらく夕妃の月給の倍はするに違いない、仕立てのよい三つ揃えの上着をつかむ。
湯船にそのまま浸かったので当然だが、ぐしょぐしょに濡れていた。
しかしその夕妃の手を神尾がつかんで離そうとするので、夕妃は逃がしてなるものかと、今度は神尾の体に飛びつくように抱きついたその時――。
「うわっ……?」
バランスを失った神尾がそのまま覆いかぶさるようにベッドに倒れてきて。
(きゃーーー!)
夕妃は神尾に押し倒される。
(じ、事故だ! 事故が起こってしまった!)
夕妃は慌てて体を起こそうとしたのだが、一方の神尾は体を起こすこともなく、切れ長の目を細めて、夕妃を見下ろしていた。
メタルフレーム越しの彼の目はとてもきれいだった。
薄暗いベッドの上で見ても、かすかに濡れた肌や髪がきらきらと光って見えた。
「――夕妃さん、俺のこと誘ってる?」
(え……?)