イジワル社長は溺愛旦那様!?

たしか神尾は自分のことをいつも礼儀正しく【僕】とか、【私】とか言ってなかっただろうか。

素の彼は普通の男の人のように【俺】と言うのかと、驚きつつも、いやいや今はそんなことを考えている状況ではないと、夕妃は神尾をじっと見上げる。


「――」


けれど神尾はなにも言わず、ただ色っぽい眼差しで夕妃を見つめ、指で夕妃の唇を撫でるだけだ。

ゆっくりと、けれど何度も往復する指の感覚に、夕妃は震える。

本当にギリギリ、唇の表面を撫でられるだけなのに、全身に淡くしびれるような快感が広がっていく。


(いやなら突き飛ばして……って神尾さんは言ったけれど。嫌じゃない場合は、どうしたらいいんだろう……)


全身ずぶぬれで、バスタオル一枚で。
そして神尾も同じく、上半身ずぶぬれのスーツ姿で。
ただ薄暗闇の中、ベッドで彼に唇を撫でられている。


もし口がきけなたら――。

自分ははっきりとそう口にするだろうか。


キスしてほしいと……。




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