イジワル社長は溺愛旦那様!?
夕妃は、シーツの上に投げ出していた手を持ち上げ、神尾の頬に指を滑らせる。
なんでもいいから神尾に触れてみたかったのだ。
ただ、彼に自分の意志で触れてみたかった。
こめかみのあたりからあご先まで指を滑らせると、神尾がクスッと笑った。
そして自分の頬を撫でる夕妃の手の甲に手を重ね、そのまま唇まで引き寄せる。
手に触れた神尾の唇は暖かい。
そして目が合うと、そのまま吸い寄せられるように神尾が顔を近づけてくる。
夕妃は高鳴る胸の動悸を感じながら、目を閉じた。
最初は軽く触れるだけのキス。それから軽い、小鳥がついばむようなキスが続く。
夕妃の額にかかる髪を神尾がかきあげる、その指さえ心地いい。
(ずっとこうしていたい……)
夕妃は神尾と唇を重ねながら、そんなことを考えていた。
本当はもっと、考えて行動しなければならない。
自分は結婚式から逃げた花嫁だ。
今さら神尾に恋をしたところで、周囲に迷惑をかけることになる。
(こんなことをしたって……)
夕妃の冷静な部分がささやく。
神尾のことをなにもしらない。
そういえば名前も知らない。
なにをしている人かも知らない。