イジワル社長は溺愛旦那様!?
「ううん、言われない。大丈夫。遅くなったらタクシーに乗ってるし、からまれたりしてない」
独身の頃、夕妃はよく通勤電車で痴漢にあっていた。夜が遅いと、酔っ払いに絡まれることも多かった。
おとなしそうな顔立ちで、なおかつ童顔なせいだとわかっているが、いろんなコンプレックスが夕妃の中で渦巻いていた。
だが湊と結婚してそのコンプレックスもなくなった。
湊が丸ごと愛してくれるから、自分が揺らがなくなった。
職場の湊は鬼のように恐ろしいが、家に帰ればひたすら甘い。
とろけてしまいそうなくらいに愛される。
風呂を出て髪を乾かし、チキンサラダとコンソメスープを食べた。
先に帰った湊が、夕妃のために作ってくれていた夕食はとても美味しかった。
時計の針が深夜を指す。だがベッドに入っても、すぐには眠らない。明かりはつけたまま、それぞれにやりたいことをやり、話しながらゆっくり過ごす。
今晩は、湊がタブレットで世界各国の新聞を読んでいる隣で、夕妃はのんびりと編み物をしていた。
「それ、靴下?」
湊が興味深そうに、夕妃の手元を見つめる。
「うん。母子でお揃いにしようと思って」
と言っても、夕妃のものではなくて、湊の親友であるエール化粧品専務、不二基(ふじもとい)の、妻へのプレゼントだ。