イジワル社長は溺愛旦那様!?

「――まぁ、いいか」


なにか言いたそうな恭子だが、特に夕妃に説明するつもりはなさそうだった。


「早くいかなきゃ、限定十食!」
「そうですねっ」


(今日こそ食べたい!)


夕妃もしっかりうなずいて、足早にビルを飛び出していた。




わき目もふらずチェーロに向かったおかげで、なんとか限定のグラタンには間に合ったようだ。
店内の一番手前の四人掛けのテーブルが奇跡的に空いていた。そして年配の女性店員がお冷をテーブルの上に置こうとする前に「グラタンセット三つ!」と澄川が注文して、すんなりとオーダーが通った。


「よかった、間に合ったみたいですね」


夕妃が三人分のコートをハンガーに掛けながらそう言うと、恭子がクスクスと笑う。


「そうね」
「ふたりはよくここに来るんですか?」


澄川が店内をキョロキョロと見回す。
今日の店内はわりと女性が多かった。


「ううん、私は初めてよ」


恭子がスマホに触れながら答える。


「私は二回目です。前回グラタンが食べられなかったので、どうしても食べたくって」


今日、あの感じのいい青年はいないようだ。
夕妃も店内を見回した後、答えた。


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