イジワル社長は溺愛旦那様!?
上司と部下に、なる前の・三
「おはようございます、夕妃さん」
どんな顔をしていいかわからず、むやみに早起きしてキッチンでコーヒーを淹れていたら、スーツに着替えて身支度を整えたらしい神尾と鉢合わせした。
朝の六時になったばかりで、日の出すらまだだ。
まさかこの時間に顔を合わせると思わなかった夕妃は、慌ててキッチンの明かりを頼りに、カウンターに置いていたメモブロックの上に文字を書きつけ差し出した。
【昨晩はお台所を勝手に使ってすみません】
「いえ、こちらこそ美味しい夕食をありがとうございました。おかげさまで久しぶりに人らしい食事ができました」
どうやらあのあと夕妃の手料理を食べてくれたらしい。使った食器が備え付けの食器洗浄機の中に入っていた。
【ご迷惑ではなかったですか】
「まったく。とても嬉しかったです」
そして神尾はクスッと笑って、食器棚からカップをふたつ取り出し、慣れた様子で夕妃が淹れた珈琲をそこにそそぐ。
「ブラックでいいですか?」
神尾の言葉に夕妃はうなずいた。
キッチンのそばのカウンターでふたりはゆっくりとコーヒーを飲む。
そこには昨晩の夕妃が巻き起こした一連の騒動の名残はないように思える。