イジワル社長は溺愛旦那様!?
「あ、社長」
恭子が緊張したように立ち上がる。夕妃も仕事の手をとめて慌てて立ち上がった。
湊の目が夕妃に注がれる。
ふたりきりの時に見せるような甘さはそこにはない。
緊張している夕妃に、湊は静かに声を掛けた。
「よくできてますね。ありがとうございます」
そしてすぐさま身をひるがえし、秘書室を出て行く。
「よかったねえー、夕妃ちゃんっ!」
「はいっ」
恭子がはしゃぎ、夕妃もホッと胸を撫でおろした。
「ってか、社長って、プライベートでもああなのかしら……。結婚したとしても、完璧主義で……亭主関白よね、きっと。お茶も自分で出さないわ。お風呂で背中を流させそう……。どんな女の人と付き合ってるんだろう。ちょっと興味あるわ」
恭子の軽口に、夕妃は苦笑しながら「そうですね」とうなずく。
オンオフを使い分けているわけではない。湊は厳しいが仕事で遅くなった夕妃のために食事を作り、お風呂だっていれてくれる。
職場の神尾湊も、夫の神尾湊も、どちらも本当の神尾湊だ。
だから夕妃は、エールマーケティングで働いているときは、神尾に認められたいと思うし、褒められるとすごく嬉しくなる。
夫婦ではなく、上司と秘書でいられる時間を、とても大事に思っている。
(湊さん、笑ってた……)
そう、扉から出て行く際、ほんの少しだけ湊が微笑みかけてくれたのだ。
これもふたりの大事な時間--。