イジワル社長は溺愛旦那様!?
上司と部下の、出張前夜
一言で社長秘書と言っても、ある意味、何でも屋のようなところがある。
夕妃はメモを片手に百貨店の和菓子屋を回り、得意先の会長が大好きだという生菓子を何点か買い求め、会社に戻るところだった。
百貨店の外商部に連絡をしてもよかったのだが、急な会合への手土産だったため、今か今かと待つよりも、自分が買いに行ったほうが早いと判断したのだ。
領収書を経理に渡してコートを秘書室で脱ぎ、紙袋を持って社長室に向かう。
木枯らしに吹かれて乱れた髪を手のひらでおさえ、それからドアをノックする。
すぐに「どうぞ」という返事が返ってきた。
「失礼します」
中に入ると、湊が窓に自分を映しながらネクタイを締めているところだった。
「ご指定の生菓子、買ってきました」
「ありがとうございます。今日はひとりで行きますので、それはデスクの上に置いておいてください」
「はい」
夕妃は言われたように紙袋をデスクの上に置いて、「失礼します」と出て行く。
ドアを神妙な面持ちで閉めた後、両手で自分の頬を挟んで、
「かっ……こよかったぁ……」
とつぶやいていた。